腕時計ケースのポリッシュの是非(備忘録)
腕時計の修理を生業にしている方々は、腕時計のケースはポリッシュしないと発言されているのがほとんどだ。もっとも、彼らがその対象としている時計は世界一流の高級ブランド品で、しかもそのほとんどは正規代理店で新品を購入しているという前提である。
そのもっともらしい理由が実に興味深い。まず、経年劣化でステンレスケースやベルトに付くスレキズは、自身の人生そのもので全く気にならないらしい。風防ガラスのキズについても、いつ付いたキズという記憶の思い出であり、視認性に問題なければそのまま使用する方が自然である。はたまた、研磨で重量が減るとまで述べられているのは、金張りの時計を指しているわけで一般的ではない持論で、オーバーホールと歩度調整で動作がいつも完璧であることの方がはるかに重要だという。
この考え方は資産価値としての高級腕時計を対象とした場合には一理あるとともに、スタイリストではなく時計修理技能士としてはまともな発言だと思う。ただし、我々一般ユーザーは時計修理技能士ではないのと、資産価値になるような腕時計を貯め込んでいるわけではないので、やはり手入れしてオリジナルの美しさが蘇るのであれば、「車」のように時には外装も磨いて気持ちよく使用したいものだ。
まあ、前述の「ポリッシュ」とはルーターにフエルトバフを装着してコンパウンドで手当たり次第に磨くという、ほとんど論外な行為を指しているらしいことは想像できので、その点についてはごもっともという感もある。そこで筆者がヴィンテージものの腕時計を入手した場合に行うお決まりの手入れの手順と留意点を備忘録として書き留めておく。
<作業手順>
・裏蓋を開けてムーブメントをケースから分離し、文字盤のほこりの有無を確認してきれいな状態で別保管する。
・裏蓋を戻して、ベゼル+風防ガラスを外す。
・風防ガラスは無傷に近い場合を除き、純正または互換品の新品を注文する。
・裏蓋とベゼルは低回転チャックで回転研磨で仕上げる。
・ケースの平面部はアルミ製の耐水ペーパーホルダーで、正確に平面研磨で仕上げる。
・ケースの曲線部で回転研磨ができない3次曲面部も上記の耐水ペーパーホルダー面を振りながら研磨仕上げを行う。
・耐水ペーパーの番手は、#400(#600)→#800→#1000→#1500
・コンパウンドの番手は、#5000(ピカール)→#6000(青棒バフ:鏡面調整)→#10000(ダイヤモンドペースト:くもり取り)
・洗浄で終了
<留意点>
・オリジナルの面構成(平面、円弧曲面、3次曲面)を確認する。
・オリジナルのエッジ位置を確認する。
・オリジナルの仕上げ種類(ヘアライン、方向性鏡面、完全鏡面)を確認する。
・研磨面の仕上げ順序(鏡面部を優先)を決める。
・エッジを極力なめない。
・ネジ切り部と嵌め込み部は絶対に研磨しない。
・青棒バフは部分調整用でこれを仕上げに用いない。(平面度や曲面の均一性が損なわれる)
・すべての作業は単一作業に分解してその成果を翌日に確認してから次の作業に進む。
平面仕上げが一番難しいのは、鏡面になった段階でその精度がわかるのと、その時点での修正が出来ない点だ。平面精度は#400(#600)で決まるのでこの段階が一番重要だ。その感覚は大工道具の「鉋(かんな)とノミ」の刃を研ぐ際の指先感覚とよく似ている。
この標準的な手順で、オリジナルケースのエッジ部分と鏡面とヘアラインの競合を正確に再現した結果の一例が「平面仕上げデザイン仕様」で鏡面とヘアラインの組み合わせものや、上の画像のようなものになる。これも風防ガラスが新品なので、全体的に目視でスレやキズは確認出来ない状態に仕上がっており、オリジナルのエッジもほぼ残っている。なお、ヘアライン部に数点の微かな打痕が残っているが、これを無理に取ろうとすると平面精度が根底から崩れる。
2026.09.07
★ 1970年製の手持ちの中で本も古い自動巻
初期の[CITIZEN Seven Star V2]の、キャリバー 5270 21石 18,000振動で、この後のモデルでハック機能が付いて21,600振動になり、後期型ではターンプッシュ式のカレンダー機構になる。本製品はハック機能もないので、時報合わせには少しテクニックが必要だが、高精度よりも安定性を重視した18,000振動の堅牢なタイプだ。
Cristal Seven と同種のクリスタルガラス風防を備えるところが気に入って、半年前に入手して未整備で自動巻き上げ機に装着したまま放置していたが、先日になってようやく手入れを行うことになった。ガラス風防は無傷なので、ケースのスレを整えて歩度調整を済ませた。
ビートエラーの収束に少し手間取ったが、最終的な歩度調整に大きな問題はなく、姿勢誤差の最大公約数的なところを見いだしてみると、以外にも誤差が小さく満足している。現在+5秒/日で調整済みだが、56年前のこの汎用キャリバーでここまで調整を追い込めるのは驚異的かもしれない。
おそらくトータルの稼働期間がかなり短い可能性がありそうなので、この先も十分使用に耐えられる実用品だと思う。
・・・つづく(もどる)
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